「アダム・スミス」
手に取った理由:
読了後の課題に対する解決策、考え方等
- スミスの仮説
P28.人間は自分の利益を考える存在であるが、人間本性の中には別の原理もある。それは、他人に関心を持つということである。人間は、自分の利害に関係なくても、他人の運不運、あるいは境遇に関心をもち、それを観察することによって、自分もなんらかの感情を引き起こす存在なのである。
- 同感
P30.他人の感情や行為の適切性を判断する心の作用を、スミスは「同感」と呼んだ。同感は、他人の喜びや悲しみ、怒りなどの諸感情を自分の心の中に写し取り、想像力を使って、それらと同様の感情を引き出そうとする。あるいは、引き出せるか否かを検討する人間の情動的な能力。
私たちは、同感という能力を使って、他人の感情や行為を観察し、それらに対して、是認、否定の判断を下す。このような観察と判断を繰り返すうちに、他人もまた私の感情や行為に関心を持ち、それらを観察し、是認や否定することを知ることになる。そして私たちは、自分の感情や行為が他人の目にさらされていることを意識し、他人から是認されたい、あるいは他人から否認されたくないと願うようになる。スミスは、この願望は人類共通のものであり、個人の中で最大級の重要性をもつものだと考える。
- 社会の繁栄
P270.人間は他人の歓喜に対しては進んで同感しようとするが、悲哀に対しては同感することを躊躇する。そして、富や高い地位は見るものに歓喜をイメージさせ、貧困や低い地位は悲哀をイメージさせる。人間は他人から関心をもたれ、同感されることを望む存在であるので、富や高い地位を求め、貧困や低い地位を避けようとする。ここに財産形成の野心の起源がある。諸個人の野心によって、市場は拡大し、資本は増大し、その結果、社会は繫栄する。
- 「賢明さ」と「弱さ」を併せ持つ人間
P271.「賢明さ」とは胸中の公平な観察者によって行動する事であり、「弱さ」とは、自分の利害や、富や地位など目に見える世間の手っ取り早い評判を優先させて行動することである。「賢明さ」は社会秩序の基礎をなし、「弱さ」は、社会の繁栄を導く原動力になるが、そのためには、それが「賢明さ」によって制御されなければならない。
世間にとって、英知や徳は見えにくいものであり、富や地位は見えやすいものである。「弱い人」にとっては、より大きな富や地位は、より多くの幸福をもたらしてくれるように思われる。
- 真の幸福とは
P79.P283.スミスは幸福を、平静と享楽にあると定義する。平静なしに享楽はあり得ないし、完全な平静があるところでは、どんなものごとでも、たいていの場合、それを楽しむことができる。
心の平静を保つために何が必要十分であるか知らないために、富や地位を求めすぎ、いつでも力の及ぶ範囲にある真実の平静を犠牲にしてはいけない。心の平静のためには、「健康で負債がなく、良心にやましいところがない」ことが必要であると考える。これらを維持する程度の収入は必要であるが、この状態にあるのなら、それ以上の財産の増加は余計なものである。多くの人間が陥る本当の不幸は、真の幸福を実現するための手段が手近にあることを忘れ、遠くにある富や地位や名誉に心を奪われ、静坐し満足しているべきときに動くことにある。
- 大切なのは「徐々に」
P241.人々の感情を無視した急激な改革は挫折し、社会秩序を不安定にする危険性を持つ。したがって、自然的自由の体系に向けた規制の緩和・撤廃は、人々の感情に配慮しつつ「徐々に」進めなければならない。しかしながら、統治者はしばしば拙速にことを運ぼうとする。そして、この傾向は、統治者が自分の掲げる理想の美しさに陶酔すればするほど強くなる。体系の人(人々の感情を考慮することなく、自分が信じる理想の体系に向かって、社会改革を進めようとする人)は、自分が非常に賢明であると思いやすく、しばしば、自分の理想的な統治計画の理想上の美しさに魅惑されるため、計画のどの部分からの小さな逸脱も我慢できない。彼はその計画と対立するであろう大きな利害関係や強い偏見に対して何の注意も払わず、自分の計画を完全に、あらゆる細部において実現しようとする。彼はチェス盤の駒を手で動かすのと同じぐらい簡単に、社会の様々な構成員を動かすことができると想像する。大抵の人は、理想を正しく理解さえすれば、すべての人は、理想の達成に対して自分と同じ情熱を忍耐を持つはずであると信じて疑わない。しかし人々は統治者と同じ理想を持つとは限らないし、持ったとしても、そのために自分が犠牲になることを受け入れるとは限らない。どのような社会改革の計画も、人々がついて行くことが出来なければ、失敗に終わるだけでなく社会を現状よりも悪くするであろう。自然的自由の体系への完全な復帰は、ゆっくりと時間をかけて慎重に行うべきである。
感想
抽象的だと感じてしまう部分が多いが、この抽象的な表現を自分の身に置き換えて、具体的に考えることが必要かと思う。共感する場面とか、自分の価値観とか。過去も今も行き過ぎた「よりよさ」を求めすぎる余り、足元が不安定になるという本末転倒を繰り返してしまっているなぁと感じる。
2023年4月14日 8:50
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